【BOSS blog】タイヤのこと

今回新しくスタートするA to Zは、限りなくライダーを試したい。そして、ライダーにエンデューロというものに向き合って欲しいと思っている。

レースというものには、そこに挑むライダーすべてに勝利の可能性がある。その可能性が公平にライダーに与えられるために、レギュレーションはある。そして、ライダーは勝利を手に入れたいなら、当然それを守らなければならない。

A to Zでは、FIMの規定に準じた「FIMエンデューロタイヤ」を、AAA/MIDDLEでは必須とし、BEGINNER/YOUTHには推奨とする。

目の前のオフロードを進むとき、どのタイヤを選ぶかで、その進み方、スピード、体感は、かなり変わってくる。それがレースの場合、選択するタイヤが勝敗を分けると言ってもいい。

どのタイヤを選ぶかも、勝つための作戦だと言われれば、その通りだ。

タイヤメーカーが出す様々な仕様のタイヤを否定するつもりも到底ない。路面状況やコースの個性に合わせたものを使用するのが当然だ。

では、なぜA to Zで「FIMエンデューロタイヤ」を必須/推奨とするのか。

それは、FIMが規定するタイヤの基準が、エンデューロという競技を、至って「真面目」に行うためにごく当たり前な基準であるからである。


「FIMエンデューロタイヤ」とは、モーターサイクルスポーツを世界的に管理し、普及と振興を図る国際組織「FIM(FÉDÉRATION INTERNATIONALE DE MOTOCYCLISME)」が主催する世界的エンデューロレースでのレギュレーション「FIM TECHNICAL RULES ENDURO」などで規定されたタイヤ仕様に適合するレーシングタイヤを指す。

FIMでは、以下を規定している。

・市販品であり、メーカーのカタログや仕様リストに掲載されていること

・薬品処理、カット、溝をつけるなど、タイヤへの一切の加工、硬度、構造変更は禁止

・タイヤウォーマーなど形状を変える可能性があるものは使用禁止

・FIM承認マーク、またはその同様の内容を示すマーキングは禁止(2018年から)

さらにエンデューロタイヤには、以下が追加となる。

・使用カテゴリーは「雪」「特別」「全地形」

・速度カテゴリーはM(130km/h)以上

・荷重指数は45(165kg)以上

・ETRTOのガイドラインを満たしていることを推奨とする

・フロント、リアともにEマークがついている

・DOTマークも同様に認められる

・リアタイヤのトレッドの深さは、トレッド面に対して直角に測定した状態で、最大13mmを超えてはならない

ちなみに、FIMのエンデューロの規定では、モトクロスタイヤ、トライアルタイヤの使用は禁止である。

まとめると、FIMの規定は「市販されているエンデューロタイヤで、車検対応のEマークがついている、トレッドの深さが13mm以下のもの」ということである。

車検対応のタイヤということは、「公道走行可能であること」ということ。

それは、エンデューロという競技が、「コース上に公道が存在する」ことを前提としているためである。

1日数百kmというコースを6日間走り続けるエンデューロの最高峰「ISDE(International 6days Enduro)」や、ヨーロッパを中心に転戦するエンデューロ世界選手権「EnduroGP」では、ライダーたちは公道上のルートを駆け抜けていく。

クローズドコースで開催されることがほとんどの日本においては馴染みがないかもしれないが、エンデューロのスタンダードは、自然の中、街の中、今ここにあるその場所を使用し、数百kmにも及ぶコースと、その途中に設定されたテストを完走するものである。

つまりは、公道走行可能なタイヤでなければ、エンデューロという競技には出ることができないのである。


この壮大な競技を行うにあたり、問題があるとすれば、レース中の事故、環境問題、運営サイドへの負担といったところだろう。その中で物理的な対応で軽減できるのは、環境への配慮だ。

FIMが「トレッドの深さは13mm以下」と規定するのは、レースによって路面が負うダメージを最小限に抑えるためである。

トレッドが深ければ、路面を掻く力が大きく、前進する力も大きい。が、それだけ路面への負荷も大きくなる。ライダーからすれば、路面への配慮よりも自身の勝利の為により先に進むことが出来るタイヤを選びたいところだろう。

しかし、エンデューロが存在し続けるためには、そこに走る場所がなければならない。環境への配慮は、勝利を掴む舞台を無くさないためには欠いてはならないものなのだ。

自分の活躍できる場所は、自分で守っていくのだ。

世界のエンデューロシーンでは、この規定に準じたタイヤの使用はスタンダードなのである。日本でも、全日本エンデューロ選手権をはじめ、地方選手権やエンジョイレースでもこれをスタンダードとする傾向にある。

エンデューロという競技をするにあたり、ごく当たり前な基準を満たしたタイヤを使用することは、「エンデューロマンシップ」に則っている、と思うのである。それがクローズドコースでのエンデューロであっても、ポイント争いなんか関係ない草レースであっても。

エンデューロの「ルール」には、エンデューロが今日まで競技として成立し、世界中のライダーを魅了し続けた背景があり、それはこれからもたくさんのライダーを受け入れるためにある。

エンデューロという競技に真摯に向き合うとき、ライダーは、エンデューロの「今」だけでなく、エンデューロの「過去」も「未来」も見ることになるはずだ。

A to Zでは、エンデューロのいろんなあり方に挑戦し続けるために、エンデューロへの想いをライダーとともに共有し続けるために、「FIMエンデューロタイヤ」の使用をスタンダードにしたいと思う。FIMがすべてだということではない。楽しければそれでいいと思う。が、これからも引き続きエンデューロを楽しみたいから、エンデューロにとって最善を尽くしていきたいのだ。

TECHNICAL ENDURO A to Z

キッズのファーストエンデューロから、プロライダーまでを網羅する新しいエンデューロレース コースディレクターは、ISDEのチームマネージャー、全日本エンデューロ監修経験ありのOPENAREA PRODUCTSの中嶋宏明